ある経済小説作家から学ぶ「時代の見方」

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ベイジン

長く家に置きっぱなしにしていた 真山仁氏の「ベイジン」を読んだ。小説というか、経済ノンフィクションのように思える内容。

真山氏は「ハゲタカ」などの経済小説で有名。本作は、北京五輪開幕にあわせ世界最大の原子力発電所を稼働させるという国家プロジェクトを中心に物語が進む。中国人と日本人の2人の主人公が、次々にふりかかる困難を共に乗り越える中で互いに理解、尊敬し合い、最後は共に「希望」という言葉の意義を見いだすというストーリー自体ももちろん感動。

しかし、さらに驚かされるのは、この「巨大原発」とそれに伴うアクシデントの描かれ方が非常にリアルであるという事。福島の原発事故で起きた光景と完全にオーバーラップする描写が多数ある。当然、この小説が書かれたのは東日本大震災の前であるにも拘らず。事故発生原因は異なれども、原発という魔物が荒れ狂い始めると、人間の手で御しきれないどのような状態になるのか、そのことをまるで予言するかのように描いている点が印象に残る。

文庫版あとがきに、著者はこのように書いている。

「(昨今の「原発こそCO2輩出量削減目標を達成する為の唯一の手段である」という世界的な意識の)劇的な変化に、心配性の私は大いなる疑問と不安を抱いている。人類がそれなりの繁栄を維持するためには、原発を抜きにしては考えられないだろう。だが、こと原発に関してだけは、コストや政治的な思惑ではなく、何よりもまず安全を最優先に考えられるべきものだと、そのプロジェクトにかかわる全ての人に心して欲しいと思う。」

これは、当然中国だけでなく、日本に向けた警鐘でもあったはず。

ちなみに、同氏は小説「マグマ」においても、原発への過度な依存や周辺に渦巻く政治的な利権争いに警鐘をならしている。この小説も東日本大震災前に書かれたものであるが、著者の洞察力に驚かされた。

http://www.amazon.co.jp/マグマ-真山-仁/dp/4022501618/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1346145228&sr=1-1

ここで原発賛成、反対ということを話題にしたいわけではない。まして、真山氏が、これらエネルギー的なテーマに関してはまるで「予言」のような内容を描いているからすごい!と言いたいわけでもない。

ただ、時代の変化、社会の変化、世界経済の変化、人々の認識の変化から「次にどんなことが課題となるのか」を洞察する同氏の力は本当に卓越していると感じる。

それは、作家としてのひらめきという類いではなく、今起きている現実とその背後にあるものを、懸命に洞察するということから生まれるのではないだろうか。

我々も、努力すれば十分にできることなのだと思う。

経営も、政治も、「風潮」に惑わされず、「その先にどんな課題があるか、どういった点に留意して進まなければならないか」を考え抜くことがとても大切なのだと改めて考える事ができた。

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