ここ1〜2年、プライベートと仕事の両面で「英語」の習得について探求しています。その中で、われわれ成人以降の日本人が英語力を身につける上で、根本的な誤解や思い違いをしていて、それを正す必要があるのでは、と考えるようになりました。
日本語を母国語とする日本人と、英語を母国語とする人々は、発音しやすい音も、聞き取りやすい音も、話し方も、精神性も、背景知識も違います。その違いを十分に認識し、思い込みを捨て、日本人に合った形で英語を習得するために何が大切なのか。自分自身の気づき7つを、思うままに書いてみました。
1.「ペラペラ」「ネイティブスピーカーみたいに」の幻想を捨てる
大学時代、周りに帰国子女の友人が沢山いて、「ああ、あんな風に綺麗な、ネイティブスピーカーみたいな発音で話せたら良いな」と憧れたりしました。
しかし、社会人になって仕事の現場でバリバリ英語を使ってコミュニケーションをしている人を見て、必ずしも「ネイティブスピーカーのような『ペラペラの』英語」を話しているわけではないことに気づきました。非常に綺麗で丁寧な英語を話していても、留学経験などはなく、ほぼ独学で日本で学ばれてきた人もいます。
アメリカのドラマや映画で話されているような英語を話そうとする幻想は捨て、日本人らしく、ゆっくり、明瞭に、丁寧に、話す英語が最も美しいのではないでしょうか。
私の父は、現在ビジネスリーダーに英語塾を開講しています。彼は、高校までを日本で過ごし、19歳で米国に渡り、26歳で帰国しました。以来、現在まで絶えず英語力を自身で磨き続け、「現時点が、人生の中で最も英語力が高い」と豪語します。塾の参加者に聞くと、その父が話す英語は、ゆっくり、明瞭で、日本人でも聞き取りやすく、成人以降に英語をマスターしようとする人にとっては「手本」になるものだと言います。
2.日本語にない、日本人として極めて発音しづらい音は、意識して繰り返し発音練習する
「TH」「L/ R」「V」「F」など、日本語に該当する音がない、あるいは混同しやすい音は、繰り返し、無意識にできるようになるくらいに「練習」することが必要です。
私の知り合いで、英語のテスト成績は高いのに、「Rice(ご飯)」「Orange juice(オレンジジュース)」「Right(右)」「Think(考える)」などの基本的なフレーズを、ネイティブスピーカーに「何度も聞き返され」て、凹んでいる人がいました。
簡単な単語であっても、その中に「R」「TH」など日本人にとって発音がしにくい音が入っていると、海外で通じにくい場合があります。流暢なスピーキングが出来るようになるよりも、「重要な音の発声」を鍛錬し、その単語が相手に明確に理解されることの方が遥かに重要です。
ちなみに、「Rice」を「Lice」と発音してしまうと「シラミ」という意味になってしまいますし、「Think(考える)」を「Sink」と発音すると「沈む」という意味になるので要注意です。
「TH」「L/ R」「V」「F」というと、「それだけ」と思われるかもしれませんが、これらのいずれかの音が含まれている単語の数は、極めて多いです。
3.あくまで日本語能力が基本であることを知る
これらの本を、読みました。
筆者は、江戸〜明治時代に英語をほぼ独学で学び、大活躍した語学の達人たちの勉強法から、現代日本人にもあったやり方を探求しようとしています。
上記書籍の筆者が強調しているのは、あくまで「日本語(国語)能力が基本である」ということです。日本語で、まず言いたいコンテンツを整理できなければ、「日本人というアイデンティティを持って発言する」ことができません。外国の人が求めているのは、「発音がよくて綺麗に英語をしゃべれる日本人」ではなく「日本人としての信念や教養や知識を持ち、英語で世界に語りかけられる」日本人であるはずです。
英語を話す前に、まず、ゆっくりと明確に、「言いたいこと」を日本語でも語れるか。
英語も日本語も、同じ言葉。両者は繋がっています。日本語が早口で聞き取りにくい人の英語は、これまた早口で聞き取りにくい。日本語で論理不明瞭な人は、英語を話してもやっぱり不明瞭です。もちろん自戒の念もこめて。
4.「文法を学びすぎて会話ができない」なんてことは絶対にないと再認識する
「日本人は、中学や高校の英語の授業で『文法や構文』偏重の教わり方になっているから『英会話』ができないのだ!」
などというもっともらしい主張があります。けれど、英語熟達者(海外でもRespectされる、しっかりした英語を話せる人)の見解を聞いても、これはもっともあぶない誤解だと言えそうです。
上記著書「英語達人塾」の著者である斎藤兆史氏は、こう述べています。
「残念ながら、今の日本人が目指している英語力は、もっぱら英語を流暢に話す能力のようだ。そして、いままでの文法・読解中心の英語教育がそのような英語力の養成にあまり貢献してこなかったとの認識に基づいて、あたかも文法・読解学習が間違った英語学習法であるかのような議論がなされることが多い。文法・読解学習がそもそも不十分であるとの議論は、まず耳にすることがない。」
日本人で、公式の舞台でしっかりと英語を話せる人は、やはり「文法的にも正しい」表現をされている気がします。上記の英語塾を開催している私の父も、授業では「Progress in English」という高校生の英語教科書を徹底復習させています。普段仕事で英語を使っている人でさえも、教科書に立ち返ると文法や構文の理解が曖昧であることに気づきます。流暢に軽快に話すことに意識が向き過ぎて、「正しく、洗練された英語表現」ができない一つの理由です。
私の妻も大学3年、4年時にと米国に留学しましたが、この意見に賛成してくれました。曰く、「友人で、英語でもしっかりとコミュニケーションできている人を見ると、やっぱり『文法や構文』をしっかり理解している人なんだよね」とのこと。
もちろん、文法を気にしすぎて「話すきっかけ」をつかめないのは問題でしょう。しかしある一定レベルを超えていくには、やはり正しく、明瞭で、洗練された英語を話せる日本人でありたいと思います。
5.江戸〜明治の日本人の英語習得法にヒントを得る
上記のご紹介した本にも解説されていますが、江戸末期〜明治時代はネイティブスピーカーの英語に触れる機会が今ほど多くなかったにもかかわらず、外国人でも驚くほど「英語が上手な」日本人が数多くいました。
もちろん、いわゆる「通詞」(江戸幕府の世襲役人で公式の通訳者)のように、国家の命運を左右する国際業務の窓口を担当した人たちの「学ぶ覚悟」は違います。ただ、それ以外にも、日本人に合った英語学習法として、先人の語学の達人から学べることは数多くありそうです。上記の書籍を書かれた専門家の方たちの主張を私なりに要約すると、日本人が語学を習得する上で有効なのは、
・素読(そどく)
・暗唱
・多読
のようです。まさに日本人が何らかの言葉を習得する上で有効とされる伝統的な訓練方法です。意味がすぐに取れなくても、ひたすら文章(できれば良質な文章)を繰り返し読み(素読)、音やリズムに慣れ、いつしかそらで口ずさめる(暗唱できる)くらいになる。そして、ひたすら読む、ということです。
私の例で恐縮ですが、中学2年の時に、英語が急に「得意科目」になりました。そのきっかけは、英語の先生から課された何らかの罰則で、教科書やテキストのある章を丸々「20回」ノートに書いて提出する、というものでした。理不尽な要求にやっている最中は不満タラタラでしたが、途中から、書きながら「暗唱」し、発音しながら、リズムをとって書いている自分に気づきました。もう完全に構文や文章の一字一句、発音記号までが頭に入っているので、次のテストがこれまでにない高得点になりました。そこからは、英語に自信が持てて、どんどん高得点が取れるようになりました。英語のリズムや響きが好きになったのかもしれません。
約20年後に、友人の結婚式でその英語の先生と再会し、
「あの罰則のおかげで英語が得意になり、いろいろな道が開けました。ありがとうございます。」
と伝えたところ、
「うれしいなあ。けどね、今は父兄の方々が厳しくて、ああいう宿題を出すとクレームきちゃうんだよなあ。」と言われていました。大切なことは、なかなか伝わらないものですね。
6.「語彙量」が全ての根幹である
先述の私の父は言います。
「聞き取りが苦手という人の大半が、単語の意味がわからなくて聞きとりにつまづくことがほとんどだ。基本に戻って、再度徹底して、語彙量を戻し、増やしていこう。できれば、10,000〜12,000語レベルまで持っていきたい。」
ちなみに、10,000後の語彙量とは、米国で大学の授業を無理なく受けられるレベルで、英文雑誌で最高峰の一つとされる「The Ecoomist」誌クラスを自然に読めるようになるためには、12,000語レベルの語彙量が望ましいとのこと。もちろん、容易にはできないですが、上記の多読を繰り返し、わからない単語を都度覚えていけば、決してものすごく時間がかかる量でもないはずです。
自分自身の感覚としても、「語彙量」が増えることで、聞き取りはもとより、スピーキングの方にも随分と自信が生まれてくる気がします。
7.教養を高めることが、英語力を高める
TOEFLやTOEICの試験もそうですが、英語の文章は、英語圏の考え方や背景知識を土台に書かれているものがほとんどです。そのため、そういった国際的な論文やエッセイに書かれていることの基礎知識があれば、多少単語の意味が聞き取れない場合でも、内容を推察することができます。
通訳者で順天堂大学国際教養学部教授の鳥飼玖美子氏は、その著書「英語公用語は何が問題か」の中で、こう述べています。
「応用言語学の視点から見ると、『相手が言っていることがよく理解できないために、討論についていくのが精一杯で、積極的に貢献できない』というのは、単なる「英語力の不足」ではなく、背景知識の不足が大きく影響している。話されていることの背景を知らないと、言葉が聞こえても何のことか理解することが難しく、当然ながら内容が分からなければ積極的に討論に参加するなどは望めない。逆に自分がよく知っている内容なら、知らない単語が混じっても意味を推察することが可能であるし、およその内容が把握できる。」
考えてみれば、ビジネスパーソンが年齢を重ねるごとに、英語苦手意識が強まるのもわかる気がします。特にエグゼクティブクラスに近くなればなるほど、海外の研修やミーティングでの議題はもとより、余暇時間や食事の時間に話される内容も「世界経済」「政治」「文化」「企業動向」など教養を求められるものになります。その際に、教養や知識がしっかりしていれば、英語力が足りていなくても何とかコミュニケーションが成り立ちますが、その教養や背景知識が曖昧だと、自分の主張や意見も説明できません。何より、自分自身が会話をしていて楽しくありません。
以上、大変僭越ながら、自分自身のこれまでの反省にも基づき、書きました。
私は英語教師でも言語学の専門家でもありませんので、あくまで私個人の意見・見解として受け止めていただければと思います。
日本人が英語力を高めること。それはそのまま、「日本人としての国際発信」につながり、日本の、日本企業の「ブランド」を高めることに直結します。
多くの仲間とともに、教養を高めながら英語力を高め、仕事や人生における選択肢を豊かなものにしていきたいです。
上記の内容とも少し重なりますが、明日1月29日(金)19時〜、英語に関するセミナーを開催します。
ご興味ある方は、下記ののご案内も是非お読みください。
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お読みいただき、ありがとうございました。