「クオリティー企業」を目指す

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「ストーリーとしての競争戦略」で有名な一橋大学の楠教授が日経新聞の「経済教室」に寄稿している記事が興味深い。
ソニーやパナソニックといった全社単位で「どの会社が良い、悪い」と評価するのはもはや時代遅れ。著者曰く、そもそも会社の戦略には「どのような事業集合体にするのか」という全社戦略の話と、個別事業レベルでどう競争に勝っていくかという競争戦略がある。M&Aや資本政策は、前者の全社戦略に該当する。ソニーやパナソニックはもはや事業の束でしかない。本当の競争力を判断するには「事業」のレベルに降りて稼ぐ力を見なければいけないという著者の主張には大きく共感できる。
では、事業としての稼ぐ力をどう見るか。著者曰く、企業の稼ぐ力の類型には「Opportunity企業」と「Quality企業」があり、前者はアジア市場など無限に機会が広がる市場に参入してがんがん稼ぎ、後者は比較的狭い事業領域で「一意専心」で徹底して内部のクオリティと価値を高めて稼ぐ違いがあるという。どちらが良いということではなく、この2つのタイプが企業の戦略には存在しているという。
前者の代表としては、世界最大の電子機器の受託製造サービス(EMS)企業の台湾のホンハイ精密工業がある。一方、後者のQ企業は、哺乳瓶等のメーカーであるピジョン、アパレルのユナイテッドアローズなどがある。どちらも売り上げは1000億円前後であるが、10%超の利益率をかせぐ。また、著者いわくQ企業には、中小企業だけではなくユニクロを持つファーストリテイリングやトヨタも含まれるという。どちらも規模は大きくても、圧倒的に価値とクオリティーの高い商材で勝負をし、高い利益率を稼ぎ出す。日本だけでなく、欧州にもQ企業が多いのは偶然ではないだろう。どこかで、日本と欧州は似た価値観を共有しているし、経済が飽和している先進国という共通項がある。
また、ベンチャー企業は基本的には機会を追求するO企業が多いのは事実だが、医療情報のエムスリーやアパレルECのスタートトゥデイ、ネット調査のマクロミル、ホテル予約の一休などQ企業も確実に増えている。ベンチャー企業以外にも、エアコンのダイキン、モーターの日本電産、建設機械のコマツ、お茶の伊藤園なども特定の事業領域で一意専心で長期利益を生み出すQ企業だという。
単純に言えば、成熟経済で利益を稼いで行くには事業レベルで価値をつくりこんでいくQ企業の経営戦略を追求していくことが必要になるという主張。これ自体は、そのとおりだが、自分としては、「有望な事業機会に、事業の価値や強みをぶつける」ことが戦略だと思っているので、この両者を分離したように見える考え方は新鮮な一方でやや違和感も感じる。ただ、アジアだ、グローバルだ、と機会探求にばかり躍起になっている企業や株主には、「そもそも、事業としての本質的な価値はしっかり磨きこめているか」を振り返って考えられる良い論考だと感じました。

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