サッカー日本代表の葛藤と挑戦は何を教えてくれるか

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7日(土)夜に放映された、NHKスペシャル「日本代表・W杯へ」を観た。

戦術を中心にした番組構成。なかなか見応えがあった。

すごく簡単に言えば、ザッケローニ監督と選手が目指すサッカーは、

■ 攻撃「的」なスタンスをとる。
(攻撃偏重という意味ではなく、意図として攻撃志向、ということ)
■ 選手同士の距離感を短めに、コンパクトに。その結果として攻守に「連動性」を生む。

というところ。

これまでの日本代表は、どちらかというと世界で戦うときは、「守備的」になり、攻撃はカウンター一本、というスタイルが多かった。しかし、ザック監督は言う。

「勝つだけならそれ(守備的)でもよい。しかしそれでは、成長がない」

哲学のある監督だと思う。

会社で言えば、「利益を出すならそれでよい。しかし、それでは成長がない」と言っているようなもの。つまり、数字という結果を超えて、「組織や人の成長」を目指しているということ。そして、さらにザック監督の強さとして、「ぶれない」ということがあると思う。

ちなみに、上記のような戦術は非常に美しいのだが、壮絶なジレンマ(葛藤)を伴う。サッカーを知っている人には自明だが、攻撃的にコンパクトに選手が連動して攻守をすれば、相手のボールを奪取しやすく、また奪った後にも速いパスまわしで相手を崩しやすい。一方で、怖いのは、「自陣の裏に出来る大きなスペース」。コンパクトにする分、そこを狙われると失点しやすい。

これは、自分の知る限り、近年の日本代表でも常に大きな議論になっていたこと。2006年のドイツワールドカップでも中田(英)選手と宮本選手の間での意識のズレもここにあった。ラインを上げて相手に攻撃的にプレッシャーをかけたい中田選手と、裏をとられすぎるリスクをおかしたくない宮本選手。

当然、現日本代表でも、守備陣は、後ろに人を多く残したいし、攻撃陣は前にもっと人がほしい。これも会社と同じで「部署」?により、「欲しいもの」が異なって、「組織の動きが分断」するジレンマといえる(例えば開発部門と営業部門、とか)。分断すると、組織の力は一気に低下する。それぞれが目的の違う動きをするから、「組織としての力」が生まれにくい。

2010年の岡田監督も、南アフリカW杯直前にジレンマに直面した。結果、彼が出した答えは、守備「的」に布陣をしき、一発カウンターで崩すための、一発のある選手(両サイドの松井、大久保、1トップの本田 等)にかける、というもの。そして、これは確かに「負けない」サッカーを創り上げ、1次リーグは突破。しかし、決勝トーナメント初戦でパラグアイと引き分け、PK戦で敗退。最後は残念な結果だったが、岡田監督と当時のチームは、壮絶なジレンマの中で「戦略」「戦術」を意思決定し、それなりの結果を残した事は素晴らしいと思う。

そういった先人達の葛藤と挑戦の歴史を経て、今のザック監督と選手が模索している「戦略」「戦術」はやはり楽しみ。大量失点して大失敗をするか、これまでの歴史を塗り替える躍進をするか「2つに1つ」のようにも見える。実際、ザンビア戦までのテストマッチを見ても、勝ってはいるが失点も多い。けど、何か可能性を感じてワクワクするのは、自分だけではないと思う。昨秋のオランダ戦やベルギー戦のような「日本人の美しい連動」から世界が驚くような得点が生まれたら・・と。

昨日の番組で、「ブレないこと」という言葉が監督や選手から繰り返し出されていた。結果は分からないが、「軸をぶらさない」ことが合い言葉になっているチームは力が生まれやすい。

そして、守備の吉田選手がこんなことを語っていた。

「失点が多くなるリスクもあり、実際そういう試合が続き、自信が無くなった時期もあった。けど、監督や選手間でも徹底的に話し合い、勇気を持って守備陣も『前へ、前へ』押し上げて行くことが大事だと、軸を決めることができた。大切なのは、軸をぶらさず決めた上で、その後に明らかになる問題をどうつぶすか、だと思う。

正しいと思う。まず、「軸」を決める。そして、そこから出てくる問題に対して全員で解決策を考えるということ。スポーツに限らず、「軸」が決まらず、「軸」の議論をずっとしている組織は多い。まず、勇気を持って軸を決めないとチームは前に進まない。

サッカー日本代表に限らず、スポーツは、指導者の哲学、リーダーシップ、戦略、組織行動など、いろいろなことを教えてくれる。

ワールドカップ、結果をおそれず、ぶれずに軸を貫く選手と監督を見たいし、精一杯応援したい。

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