11月1日から5日間、母校ドラッカー・スクールのあるクレアモントに滞在しました。
5日に開催されたスクールの大きなイベント(「Drucker Day」)に参加することが主目的でしたが、その前に教授、スクール・スタッフの皆さん、在校生、在学時のクラスメイトやその家族とじっくり語り合える時間が持てました。そして、その「対話」の中で、日本では忘れがちだった「大切なこと」をたくさん思い出すことができました。少しずつここでも紹介していきたいと思います。
ドラッカー・スクール在校生の親切なアレジメントにより、Jeremy Hunter 教授や、Vijay Sathe教授の授業をはじめ、4つの授業に参加させてもらいました(1つ3時間の授業なので、時差ぼけの身としては少々タフでしたが、ありがたかったです 笑)。自分が12年前に卒業した時と比べ、時代に合わせてどの授業も随分「進化」していました。
今回はまず、11月2日水曜日に参加した、スクールの有名教授でもあるVijay Sathe (ビジェー・サテー)教授の新しい授業「Managing Creative Economy」(邦題をつけるなら「クリエイティブ経済における経営」?)を受講しての気づきを書きます。
これは、文字どおり、今後ますます発展する「クリエイティブ産業」(アート、エンターテイメント、ゲーム、デザインなど)を中心とした経済の中で、どのように「経営(マネジメント)」の戦略や組織作りを考えていくか、を学ぶ授業です。
この授業は、通常のMBAの学生、Executive MBAの学生、そしてデザインスクールとの複合修士の学生が混ざり合って受講しています。ドラッカー・スクールは、「デザイン思考」の教育にも力を入れていて、近隣都市パサデナにある全米有数のデザインスクール「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」と提携し、「デザイン」と「MBA」の双方を専攻するプログラムを提供しています。「デザインスクール」の学生がクラスに一定割合いるのは、そのためです。
僕が参加した回は、たまたま幸運にも「デザイン思考」を教えるHideki Yamawaki 教授がゲスト教授として授業に参加。サテー教授とのコラボレーション授業でした。
冒頭、Yamawaki教授から学生に以下の簡単な「お題」が出されます。
「カリフォルニアで新しいドーナツビジネスを立ち上げる。その事業アイディアを45分で練り、発表せよ」
チームは、「MBA学生」「Executive MBA学生」「デザインスクールの学生」という分け方です。
それぞれの学生群ごとに特徴が出るのが面白かったです。
作業は、クラス内外のスペースを使って、思いのままに進めます。こんな感じ。
そして、それぞれ約45分でプランをまとめ、発表。
もちろん、どれが良い、悪いではないですが、やはり一番インパクトがあったのが「デザイン」思考で考えるチームのプレゼンでした。
これだけの短時間なのに、事業アイディアの完成度が高いのもさることがながら、なにより皆が「イキイキ」とアイディアを発表していたのが印象的。MBAの学生はどちらかというと、「ニーズ分析」や「市場環境の整理」などから入る(当然)のですが、デザインの学生は、商品や業界に対する「感情」「希望」「アイディア(発想)」などを短時間で徹底的に出して、「思考のパイをどんどん広げた」上で、新しい具体的なアイディアに収束させている感じです。
休み時間に、一見フットボール選手のようにいかついMatt(マット)というデザインチームのメンバーにあれこれ質問をぶつけてみました。
私「あの最初のポストイットの議論、時間は短かったけど、どんなことを話し合っていたの?」
マット「あれはね、ドーナツに関して自分が思っていること、考えていることを、ひたすら出し合っていたんだ。例えば『俺はこれが好きだ』とか『こういう味が人気だよ』とか『太りやすいのが心配よ』とか、ドーナツについていろいろ思ったことを言葉にしてひたすら出しあうんだ。」
私「なるほどね。けど、みんながそれだけ好き勝手にアイディアを出し合うと、まとめるのが大変じゃないの?」
マット「いや、まとめるという感じじゃないな。『へえ、その意見は意外だな。それは考えなかった。それって、さっきの彼の意見と組み合わせると、こういうことがいえるんじゃないか?』みたいな感じで、お互いの異なる意見をかぶせあって、何か新しいコンセプトが生まれるのを皆で楽しんでいる、みたいな感じだね。」
私「なるほどね。だから意見が『違う』ことはむしろ歓迎、という感じなんだ。けど、45分の中でそれを具体的な『ビジネス』に落とし込んでいくのは、これもまた難しいんじゃない?」
マット「そうだね。確かに、アイディアが広がるだけではダメで、具体策に落とさないといけない。その時は、逆に『既に成功しているやり方』を参考にするよ。例えば、アップルのビジネスモデルとか、DIY(Do It Yourself)で成功しているモデルとか、サプライチェーンで成功している方法とか、既に世の中にある成功モデルに当てはめてみると面白いアイディアが浮かぶことがあるよ。」
私「なるほど、ドーナツとは全然関係なくても、既に成功しているモデルを参考に具体策に落とし込むんだね。」
マット「そうだよ。だって、世の中には既に成功している知恵が山ほどあるじゃない。それを活かせばいいんだよ。そうすれば、斬新なアイディアを実現する、成功確率の高いビジネスイメージを描くことができる」
私「なるほどねー(感心)」
そして、ここのデザインの学生たちは、MABの科目も複合的に履修しているので、最後にしっかりと事業環境分析の視点やファイナンス的な見込みも書き加えている。まさに、デザインの思考とMBAの思考が融合した感じ。それが、また印象的でした。
いろいろ大切なことを考えさせてくれた授業でした。
私たちはどうしても、「既存の経済環境」「市場」を前提にして、思考をそれに当てはめたり、既存の競争環境の枠の中でどう差別化するか、といったことを考えがちです。
けれど、デザイン思考を駆使する学生たちは違いました。
まず、彼らは、異なる意見や発想を喜んでつなぎ合わせて、既存の常識よりも何倍も大きい事業コンセプトを「創り出そう」としていました。しかも、自分たち自身の知恵やアイディアだけでなく、世の中に既にある先人たちの成功した知恵とも融合して。
これは、まさにこれからの「クリエイティブ」時代の戦略構想のあり方だと思いました。
人間同士が知恵を出し合って、その思考の中で、事業機会(チャンス)をどんどん大きく膨らませていくイメージです。
そして、発想を重ね合わせることで、チームのメンバーから新しい集団の知恵が生まれてくる。そういうプロセスを経ているから、デザインの学生たちは皆とりわけ「いきいき」としているのかもしれません。
MBAの学生がこのようなデザインの学生の思考を学び、一方でデザインの学生がMBAの学生の思考を学ぶ環境。お互い学び合うことで生まれるものは、本当に大きい気がしました。
最後、サテー教授と話した時に、こんな話をしてくれました。
「これからは、製造業、サービス業問わず、『クリエイティブ』な思考が圧倒的に重要になる。これが、ピーター(ドラッカー)が生涯を通して探求した『ナレッジ・エコノミー』の時代だ。だから私は、この授業を新たに創ったんだ。私一人では教えることができない。多くの専門家や、ドラッカー・スクールの他の教授たちの専門性も借りて、創っていく。この講座は、きっとピーター(ドラッカー)も喜んでくれるはずだ。『ビジェー、必要なのは、まさにそれだ。それはいい授業だ。』ってね(笑)。彼と20年以上同僚として一緒に働いたから、私にはそれがわかるんだ。」
世代を超えて、少しずつ形を変えながらも、大切な知恵が伝承されていく。
そんな素晴らしさも感じることができた時間でもありました。