企業へのトレーニングや、連載をさせて頂く中で、「マネージャーに向いている人とはどのような人か」という話になる。
自分がベンチャー企業の役員をやっていた際にも、一番悩んだのは、
「誰をグループやチームのマネージャー(部長、課長等を含む)に任命するか」
ということだった。
当然、各メンバーの採用や昇進、異動といった人事課題も悩ましいし、大変な意思決定だと思う。
しかしそれ以上に、「誰をマネジメントポジションにつけるか」は、マネジメントをする人の責任や役割の大きさを考えると、相当悩まざるをえない。
そして、「適任」の人材というのはいつの世でも不足している。
この難問が、実は多くの企業や組織であまり悩まれずに、さらっと決まり、組織やチームを壊してしまっている人が多いのは非常に悲しいことなのだが・・。
マネジメントをする人は、「組織と人に価値ある成果を上げさせる責任」を担う。
重大な責任だ。
もちろん、売上げ・利益・生産性といった「経済的な」成果を問われる。
さらに、企業は社会的・人間的な側面も併せ持つので、「人材を育成し、メンバーの能力を高める事」「新しい価値を生み出すこと」といった役割も期待される。
しかし、これらを選任時に細かく確認できるわけでもない。
そんな中、自分がいつも思い出していた言葉がある。(もちろん、自分への戒めも含めて、であるが)
ドラッカーの「マネジメント」にある、以下の言葉だ。
「マネジメントとは、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造すること」
極めて当たり前だ!と思うかもしれない。
しかし、これはすごい定義だ。5人いるチームで、10人分に匹敵するような成果をあげる組織もあれば、15人いるのに、5、6人分の成果しか上げていない組織もある。
前者は、少ない人数でも、お互いが強みを発揮して、主体的・創造的にいきいきと働くことによって、5人の力以上のものが「組織」から生まれてくる。結果、個々の弱みというものは、組織の力によって目立たなくなり、気にもされない。そのような環境で人はますますやりがいを感じるので、どんどん新しい価値を創造して、経済的な成果につなげていく。周りから見れば「なんであいつら、あんなにまとまって、すごいパワーを出せるの?」と言われるような存在になる。ただ、外からは内部で何が起きているかなかなか分からない。
一方後者は・・。残念ながら日本の組織では多いけれど、「弱み」「権限」「管理」「制約」といった方向にマネージャーの意識がいってしまい、メンバーの潜在的な力を生み出せない。当然は仕事は進んでいるが「やらされ感」に似た雰囲気が蔓延し、「これくらいやっておけばいいか」「これは、俺の仕事ではないから」といったムードになる。メンバーが個々で輝いていないから、そこら中で人間関係のいざこざが起きていて、「元々目指していた大切な成果」よりも、目の前の「問題」「不満」に意識が集中する。結果、「僕ら、こんなに人数いるのに、全然生産的じゃないよね。半分の人数でできるよね。」といった自虐的な言葉が飛び交うようになる。
なぜ、ここまで違いが出るのだろう。断言する。問題はマネージャーにある。もちろん、個々のメンバーに問題もあるかもしれない。しかし、それも含めて「共通の目的」を定めて、個々のメンバーと会話しながら「(どんなことでも)強み」を発掘して、目標に向かわせるのがマネージャーの仕事だ。そこまで含めて仕事であるということが多くの場合理解されていない。マネージャーなのに、堂々と「部下に責任を押し付ける」人を見ていると、絶望に近い気になる。
これはもちろん、自分への戒めや後悔を含めて書いている。マネジメントの仕事というのは、厳しい自己規律を要求する。組織を預かった以上、その組織に「人数以上の総和」を生み出す事が求められる。それができないのであれば、何かの問題が「自分」にある。そう考えなければならない。やりがいと責任感を感じていなければできない仕事だ。
冒頭の話。そういう理由で、「誰をマネージャーにするか」は経営者にとって相当悩む問いだ。
しかし、おそらく「感覚的には」共通した基準を持っているのではないかと思う。
それは、
「こいつに任せれば、メンバーの能力を引き出して、生産的で創造的なチームをつくってくれそう」
というもの。
マネジメントに年齢、知識、知能、技能はあまり関係ない。
実際、年上の専門家の能力をうまく引き出して、組織の成果につなげていく若きマネージャーがいる。
そういう人が多くの企業で沢山生まれてきてほしい。
そうすることで企業の生産性が高まり、利益もあがり、社員の家族も幸せになる。そして、事業が大きくなり取引先も顧客も幸福になる。
マネージャーって、やっぱり大事な仕事だ。
どんなに小さい組織やプロジェクトであっても、マネージャーの情熱と責任感が、社会をよくしていくのだから。
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