ただ正直、当初はたいていの議論が「ピン」と来ない。
それは、僕だけではないはずだ。
トップ層からの大号令で、「営業革新」が至上命題になる。
営業戦略の再設計
営業組織の再構築
営業管理システムの導入
コンサルティング会社やシステム会社からも様々な提案書が出される。
しかし、
「戦略フレームワークや、組織改編や、情報システムの導入で本当に営業の成果が上がるのか?」
「大切なことを見逃していないだろうか?」
そんなもやもやした雰囲気に場が包まれることがよくある。
その大切なことととは、「顧客が何を価値とし、何を買うか」という論点だ。
一流企業で選抜された営業マンの方に「顧客があなたの会社から買う価値は何か」と問うと、多くの場合
「ブランド」
「信頼」
「品質」
「○○ソリューションサービス」
といった抽象的な答えが返ってくる。
間違ってはいないかもしれない。
しかし、「品質や信頼が高いのは、あなたの会社だけですか?他社も同様では?」
と問うと、それ以上の答えがない。
「20年営業最前線でやってきたが、『顧客が本当のところウチから何を買うのか』考えたことがなかった」という本音も多く出てくる。
顧客のニーズも市場競争環境も変化する時代、営業担当者が「顧客が何を買うか」という基本的な問いに対して思考停止している場合は、どんな施策を打っても上手く行かない。
会社が作ったスローガンや広報的なフレーズに依存しすぎ、それを表層的に語るのも、よく見られる要注意症状だ。(第一、そのスローガンを顧客が本当に口にしていることは殆どない)
「お客様があなたの肩をたたき、笑顔で語りかける感謝の言葉は何だったか?」
「それはどんな『満足』『価値』を表したものだったか?」
と問いかけると、
「とにかく、業務システム導入実務の現場知識や事例が豊富」(システム開発会社)
「営業に依頼してからの判断スピードが他社より圧倒的に速い」(オフィス機器メーカー)
「丁寧なヒアリングで、我が家独自の要望を真摯に聞いて提案してくれる」(リフォーム会社)
「レジでお客さんを待たせないように、従業員全員が配慮して迅速に動いてくれて気持ちよい」(小売店)
など、お客様から言われた「生」の満足の声がいろいろと出てくる。
それら一つ一つを紡ぎだすことで、「顧客が何を買っているか、今後何を買うのか」という大切な問いへのヒントをくれる。
この対話なしに、戦略、組織、情報システムの話をしても意味がない。
ドラッカーはこう言っている。
「企業が売っていると考えているものを顧客が買っていることは稀である。」
この考えは、かつてベンチャー企業でパッケージソフトウェア販売の事業を率いていた僕にとって、この上ないヒントをくれた。
長年営業に携わっている者、有名ソフトウェア会社で経験した人材の提案書を見ても、奇麗には書かれているが、「何が価値か、どんな価値を提供しようとしているか」が見えないことが多かった。
彼らの長所を残しながらも、僕は全てのメッセージを「我々が売りたいもの、売っているつもりのもの」から「顧客が求めるもの、お金を出してでも手にしたいもの」という視点に切り替えた。
顧客は、「システム」を欲しいのではなく、システム導入によって残業時間の削減、社内稟議プロセスの短縮、成約率を高める為の情報共有の仕組みがほしい。
そのために、システムだけではカバーできないノウハウ全体を提案に織り込んだ。
成果が上がった事は言う迄もない。コンペでの勝率も圧倒的に高まった。
「システム販売」を行っている競合は当然ついてこれない。
もちろんそれでも、強引営業手法をする競合に負けたことはあったが、遅かれ早かれ「あの導入は結局上手く行っていない」という声が聞こえてきた。
ドラッカーは、「原理原則に反することは遅かれ早かれ例外なく破綻する」と教えてくれた。営業の原理原則とは、「製品」を売るより、「価値」を徹底的に探って、それを提案していくこと。
確かに、この原則は、自分にとって何よりも強力な武器となった。
多くの会社の優秀な営業マンのも皆さんが、変化の激しい中で今後も輝いていけるよう、是非この原則を思い出していただきたい。
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