理念
100年後も、人を幸福にする企業とプロジェクトを
日本は、「事業立国」だと私たちは考えています。
「事業家立国」と言えるかもしれません。
他国とは違い、エネルギー資源立国でも、IT立国でも、金融立国でもない。目に見えるアドバンテージが少ない我が国において、起業家精神と倫理意識に富んだ多くの事業家たちが、健全な事業活動から安定的な富と長期的な雇用を生みだす循環を創り上げました。
その結果、世界も驚く経済成長と豊かな社会が実現されました。もちろん、ここでいう「事業」とは、営利企業に限らず、教育・医療・芸術・文化など幅広い面で社会に貢献して来た「プロジェクト」全体をさします。
しかしながら、高度経済成長、バブル経崩壊済などを経て、日本の「事業」は方向性を見失ったように見えます。人々は安定した会社勤務に慣れ、安定を手放すことを怖れ、いつしか創造的なアイディアや想いを率直にぶつけ合う「事業家的な精神」は陰を潜め始めました。不確実な時代の中でリスクをなかなかとらない、とりにくいという背景もあるでしょう。
今こそ、偉大な日本人たちが発揮して来た健全な「事業家精神」「起業家精神」を取り戻すタイミングではないでしょうか。必ずしも巨大事業や越高収益企業を築く必要はないはずです。大企業の中にいても、あるいは地域コミュニティで小さいながらも素敵なスモールビジネスを手がけるという形でも、「事業家精神」は発揮できます。そしてその事業家精神は、日本人特有の倫理基準や行動規範に支えられた、欧米や他の新興国とも少し異なるもののはずです。
一人一人が事業家精神とイニシアティブ(自己責任意識)を持つ事で、持ち場持ち場で質の高い成果を生みだし、全体の経済活動も好転させられる。これからの時代に、そのような望ましい経済発展のモデルを世界に示すことができるのは、日本と日本人です。
そういった日本独自の「事業家精神」「事業創造のモデル」が世界に改めて認められ、評価され、国境を越えて広く広がって行けば、その土台の上に世界からも有効な知や技術が日本に集まり、ますます相互に尊重・協力し合える。そのような対等なパートナーシップが世界を舞台に結べて行けるでしょう。
政府施策、制度、既存組織、役職が引っ張る社会ではなく、規模が小さいものも含め、多くの魅力的な事業(Project)が社会を牽引(Initiative)していく。
私たちは、そのような健全な社会、人間が幸福になる経済活動・起業(企業)活動を実現するために、「経営教育事業」を軸に様々な支援と実践をしていきます。
イノベーションと起業家精神がなぜ必要か
20世紀半ばから末にかけては、いわば「大組織」の時代でした。
巨大な産業資本を持つ会社組織が、ある意味では国家や政治的リーダーと同等かそれ以上に影響力を持った時代でもありました。
日本においても、ソニーやホンダ、松下電器(現パナソニック)など、偉大な起業家たちが設立した企業が急成長し、高度成長期を迎え、大組織化していきました。多くの人が企業に勤務し、今日より明日、明日よりその先に、所得も地位も向上し、未来に希望を持てる時代でした。
もちろん、今日でも、大組織の影響力や社会的な存在意義は変わりません。しかしながら、今、確実に進行しているのは
「起業家社会」への急速なシフト
です。
特にアメリカを中心とした欧米諸国では、大学を卒業した優秀な若者たちが新しい事業を立ち上げています。
大学卒業後の若者だけでなく、女性、主婦、定年(もしくは早期退職)したシニア世代までもが、仲間と新しい事業を立ち上げるケースが急激に増えています。
ウェブデザイナーやコンサルタントなど、個人の「フリーランサー」として独立している人まで含めるとその数はさらに増えます。日本においても、アメリカと比べれば規模は少ないとはいえ、その傾向は同じです。
企業においても、従来型の事業を「維持・管理」する役割から、「新規事業」を立ち上げる役割へと、優秀な社員に求められる期待が大きく変わってきています。
グローバル化、情報化、技術革新により、起業活動が以前より格段にやりやすくなったことも大きな要因です。
これが、「起業家社会」の現実です。
その中で、問われるのが「イノベーション」を起こす力であり、それを事業化する「起業家精神」です。
「イノベーションと起業家精神」を全ての国民、全ての社員が存分に発揮し、そしてそこから生まれた事業や組織を適切に「マネジメント」する。これこそが、現代において会社、社会、人が成長・発展していく上での鍵となるのです。
ドラッカーは、「Innovation and Entrepreneurship (邦題:「イノベーションと企業家精神」)」の中で、こう書いています。
「What we need is an entrepreneurial society in which innovation and entrepreneurship are normal, steady, and continuous.
(私たちとって必要なのは、イノベーションと起業家精神が日常的で、確実に、継続的に実践されている「起業家社会」である。)」
産業、事業は人間と同じく必ず年をとります。産業の「ライフサイクル」(導入期- 成長期- 成熟期- 衰退期)は有名です。
ある産業や事業が衰退したとしても、また新たに事業機会と雇用機会を生み出す企業が生まれてくる。これが、アメリカにおいて20世紀後半に起きたことです。その結果、多くの産業エコシステムや雇用が生み出されました。
起業家社会という現実を受け入れ、そのための人財を育てる会社だけが、発展する時代になります。
日本企業と日本人が、イノベーションと起業家精神を再び存分に発揮すべき時がやってきています。
イノベーションを起こす3つの鍵
Mission(使命)&Vision(未来像)
なぜ、イノベーションを起こす上で、MissionとVisionが必要なのでしょうか。
人は、その事業の有意義な使命や、わくわくするような未来の実現イメージを描いた時に、最も創造性を発揮します。
闇雲に「新商品、新サービスを」と唱えても、心を打つようなイノベーティブなアイディアは生まれないものです。
「我々はなぜ、この事業に取り組んでいるのか」
「実現したい未来像(イメージ)は、どのようなものか」
それらを明確にすることから、経営におけるイノベーションは始まります。
それは、イノベーションの源泉は、間違いなく、起業家の「情熱」であるからです。
使命感と情熱を持ち、心からそれを実現したいと願うことで、アイディアが湧きだし、洞察力も磨かれ、また協力者との出会いも生まれます。
ミッション(使命)とVision(未来像)を明らかにする上では、まずリーダー自身が深く「内省」することです。
藤田がクレアモント大学院大学でドラッカー教授の講義に初めて出席した時、その第一声は、以下のものでした。
「Remember who you are. Take your responsibility. 」
(あなたはいったい何者か、それを考えなさい。その答えに自分で責任を持ちなさい。)
自分のMissionとVisionを明確にするためには、まず「自己認識」(自分はいったい何者かを知ること)が不可欠です。自己を知ることで、価値観が明確になり、自ずと使命や求める未来図が見えてきます。
自己の既成概念や思い込みを棄て去り、新しい自分へ、新しい組織へと自ら「イノベート(革新)していくことも必要です。
ドラッカーはこう言います。
「イノベーションの戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。イノベーションを行う組織は、昨日を守る為に時間と資源を使わない。昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいものに解放できる。」
(ドラッカー 「イノベーションと企業家精神」)
昨日までのものに意識を奪われるのではなく、常に新しい視点、新しい考え方で、自社の、ご自身の「Vision」「Mission」を考えていきましょう。
Concept Design(事業構想)
私が経営学を学んだピーター・ドラッカーが必ず最初に聞いていた質問は、以下のものでした。
「What is your business? (あなたの事業とは何ですか?)」
事業のコンセプトづくりとは、まさにこの問いに答えることから始まります。
たとえば、スターバックスは、その事業を「コーヒー販売業」ではなく、「(職場とも家とも違う)第三の場所を提供する事業」と定義しました。
既存の業界や商品の「枠」を超えて、時代が求める事業のかたちを再定義する。ここから、イノベーションにつながる発想が数多く生まれます。
ドラッカーは、こうも言っています。
「自らの事業は何かを知ることほど、簡単で分かりきったことはないと思われるかもしれない。鉄鋼会社は鉄をつくり、鉄道会社は貨物と乗客を運び、保険会社は火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す。
しかし実際には、『われわれの事業は何か』との問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。わかりきった答えが正しいことはほとんどない。
(中略)
企業の目的としての事業が十分に検討されていないことが、企業の挫折や失敗の最大の原因である。」
社会や市場は、企業側が想定する以上に早く変化しています。企業は社会に必要とされ、またその中の公器としての役割を担うことで初めて、発展していくものであるとすれば、定期的に「自分たちの事業とは一体何か、今後どうなるか」という問いを自問する必要があります。
ITサービス、自動車メーカー、航空会社、ホテル、教育機関、医療機関のいずれであっても、この問いから逃れることはできません。この問いを真剣に考え、答えることこそが「イノベーション」のスタートであり、起業家としての活動の第一歩になります。
そして、事業コンセプトを新しくて定義した上で、「ビジネスモデル」を構築していきます。巷には「ビジネスモデル」を解説した書籍が多数ありますが、ビジネスモデルが先に作られることはありません。最初に「ビジネスコンセプト」の創造ありき、なのです。
では、良いビジネスモデルとは一体何でしょうか。
それについても簡単に付記しておきます。
良いビジネスモデルとは、「事業者の創意工夫により、売上拡大とコストの統制が同時に実現できているモデル」です。
その特徴は、
①「誰が顧客か(誰からお金をもらうか含め)」と顧客への「提供価値」が明快に絞り込まれている
(例:スターバックス、QBハウス、ガリバー、コストコ、デアゴスティーニなどなど)
②絞られた顧客価値提供のために、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、チャネル、仕組み、提携など)を意図を持って差別化させている
③同様に、ビジネスプロセス(いわゆるバリューチェーン)においても、分離・統合・入れ替えといった工夫がなされている
④(上記の統合として)独自の「利益創出のメカニズム」を確立している。
(売上拡大のサイクルと、コスト統制のサイクル同時実現)
かなり具体的な話に入っていきますので、これらについては、また個別に皆さんとお話ししたいと思います。
Human(人財) & Team(チーム)
本来のイノベーションとは大規模な「技術開発」をすることでも、大型のM&Aを仕掛けることでもありません。
経営におけるイノベーションとは、「人が、慣れ親しんだ考え方から脱し、新しい価値を生む発想をすること」です。
イノベーションを起こすには、自らの頭で考える人財がいることと、そのような人財が育つ環境が不可欠です。
また、個人だけでなく、「チーム」の活性化も重要です。人と徹底的に議論し、対話をすることで、新しい発想が生まれるからです。
旧来の考え方に囚われず、新しい見方を柔軟に取り入れる。そこから、人とチームを中心にしたイノベーションが生まれます。
イノベーションは、目的を共有し、協働する意思を持ち、本音で率直なコミュニケーションを行えるチームから生まれます。過度に依存し合うことなく、それぞれがプロフェッショナルとしての自覚とプライドを持ったチームであればなおさら、優れたイノベーションが生まれます。
イノベーションを起こせるチームに共通する特徴を一つ挙げるとすれば、それは
「変化を脅威ではなく、チャンス(機会)と捉える」
という性質でしょう。
ドラッカーはこう言います。
「組織がチェンジ・エージェントたるための要点は、組織全体の思考態度を変える事である。全員が変化を脅威でなくチャンスとして捉えるようになることである。」
(ドラッカー 「ネクスト・ソサエティ」)
イノベーションは、資源の活かし方を変え、新しい価値や満足を生み出すことで、経済的にも、社会的にも成長をしていくことです。すなわち、「変化」が大前提です。
言葉としては理解していたとしても、その実、人や組織は変化を恐れます。「自分の仕事は、ポジションは無くならないか」「新しい技術が開発されたらシェアを失うのではないか」と、変化をとかく「脅威」と感じてしまうのです。
イノベーションを起こせる組織は、「変化を先取りし、最先端を走る」ことを恐れず、むしろ楽しみます。恐れずに、変化をチャンスとして捉える人と組織にイノベーションの機会はますますクリアに見えてくるのです。
そのためには、新しいリーダーシップのスタイルが必要です。これまでのように一部の強力なリーダーが部下の集団を力強く牽引するスタイルではなく、共通の理想を持ち、それぞれがプロフェッショナルとしての責任と役割を担い、プロジェクトに邁進する。そのような自発的なチームを数多く生み出すリーダーシップがこれからますます求められます。
ドラッカー・スクール時代に藤田がリーダーシップを学んだ恩師、ジーン・リップマン・ブルーメンは「HOT GROUPS」というコセンプトを世に出しました。
「ホットグループ」とは、情熱とミッションを共有して偉大な成果を生む究極のグループです。
「どうしてあんなすごいことができたんだろう」
「あのメンバーのまとまりはすごかった」
「あのチームの一員になれて幸せだった」
誰しも、一度や二度は、そんな経験があるはずです。
それこそが、「ホットグループ」です。
(HOT GROUPS原著(上)と、藤田がドラッカー・スクール卒業生4名で翻訳した日本語版(下))
イノベーションを起こす組織とチームを生み出すには、上からの統制・管理を和らげ、人間とチームの本来の力を最大限に発揮して成果を生み出す、「ホットグループ」を数多く生み出すことが不可欠です。
この組織とチームづくりの原則についても、個々の組織の状況に合わせてくわしくご説明したいと思います。